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ろう・難聴児へのオンライン授業無償提供の終了報告と今後の展開

尾中 友哉
尾中 友哉

1.オンライン授業の概要

1-1.無償提供に至った背景

きっかけは、新型コロナウイルスの影響による学校休校から1ヶ月がまだ経たない頃、私たちの運営する「デフアカデミー」の子どもが、試しにやってみたオンラインでの会話の中で涙ぐんで泣いてしまったことでした。その子どもは「手話で話せることがうれしい」と言っていました。コミュニケーション的なマイノリティ(少数派)は、コロナによって孤立感が高まるのではないか?と感じた瞬間でした。そしてそれは、デフアカデミーのある大阪のろう・難聴児だけに起きていることではないと考えました。

「ろう・難聴児に向けたオンライン授業」はコロナの影響が出る前から準備を進めており、満を持してみなさまに提供する計画を立てておりました。しかし、学校休校によって”日常生活が一変”してしまいました。それに伴い私たちも経営計画を変更し、寄付金や有償ボランティアの先生を集める声掛けをさせて頂き、オンライン授業の無償提供を実行することができました。

1-2.提供内容

4月11日の呼びかけから5月31日までに、日本全国・タイ・アメリカから手話のできるろう者・難聴者・聴者の「先生」約30名が、日本全国の約60名のろう・難聴児の「生徒」へ向けて、それぞれ週2~3回、合計750回のオンライン授業の無償提供を行いました。

主な授業の内容

■教科学習指導(宿題や分からないところを中心に手話などの情報保障付きで指導を行う)
■ロールモデル教育(デフの先輩から生きる知恵を学ぶ、交流を通じて視野を広げる)
■ことば学習(手話、日本語の語彙や使用法について学ぶ)
■ITスキル教育(PCを使いネットやソフトに対するスキル・活用法を学ぶ)

2.終了後アンケートの結果について


・オンライン授業自体に90%以上が満足
・日本手話で学びたい児童に「不満足」の声があった


・今後の有償でもオンライン授業を継続したい方が90%以上
・5%はコロナの休校期間のみ活用



・オンライン授業に求められるものは「先生の質」と「プログラム(教え方の手順)の内容」の傾向が高い
・アンケート全体を通して「良い先生との出会い」に価値を感じる傾向が高かった

保護者の声

無償提供、本当に感謝いたします。良き先生の出逢いのおかげで、子ども達、良い影響を受けております。未来の聾難聴の子どもたちのために、保護者もできることは少しずつ手助けしたいと思います。引き続き継続をお待ちしております。ありがとうございました!

我が家は札幌在住です。この度、東京の聾のおともだちに、オンラインで無償の授業がうけられるんだよと教えてもらい、大阪と札幌、だめ元で応募しました。
サービスが受けられることになり、ありがたい気持ちになりました。
この1ヶ月、先生との時間を心待ちにしていた子どもの姿を見てきました。担当していただいたハリー先生がアメリカ在住ということも、インターネットって、オンラインってすごいを子どもと一緒に私も実感しました。
このような機会をつくっていただいた運営の皆さん、本当にありがとうございました。

本当にこの様な良い機会を与えて頂き感謝しております。ここに出会わなければ、今の息子はなかったのでは?というぐらい楽しんでくれました。ありがとうございました。

一方、オンラインだから、良くなかったという率直な感想も頂きました。

オンラインだから、勉強を頭に入れてない感じ 暇つぶしにできて良かったと思う

生徒から先生への感謝のメッセージ

有償ボランティアの先生方には、子どもたちからのメッセージを添えて感謝状を送付いたしました。

3.オンライン授業から見えてきたこと、再確認できたこと

コミュニケーションの多様性と個別指導の相性の良さ

聞こえない聞こえにくいことから視覚情報を丁寧に提供する、特に「話を聞きながら、ノートに書く」ではなく「話している先生と教材を同時に見る」ことが必要という工夫に加えて、その生徒のコミュニケーション手段・学習言語・文化・聴力等といったろう・難聴児における多様性の重点項目を考慮し、先生とマッチングできたことが満足につながりました。その一方で日本手話が流暢な先生の確保という課題点も見つかりました。
個別指導だからこそ、こだわることができた・作ることのできた学習空間であったと考えています。

子どもにはコミュニケーションが必要

ごくあたりまえのことですが”日常が一変”した中では、「コミュニケーションが必要」ということが痛切に感じられました。社会人教育の中で、上司が部下に対して「ティーチング(教える)」するのではなく「コーチング(伴走する)」が一般的になっているように、不安を感じていたり・やる気のでない子どもたちに、先生が寄り添い励まし共に学ぶアプローチは、このコロナ禍の時期以降にも有効であると考えます。

距離的を超えた出会いの可能性

およそ1000人に一人というマイノリティであるろう・難聴児は「出会えない」という課題が大きく横たわっていたことに気づきました。人数が少ないから、密集していなければ「距離」によって出会えなくなってしまう現実があると感じました。その点に関してオンラインは、触れ合うことこそできませんが「距離を超えて」、気の合う人と出会い、出会いの可能性によって成長できる機会を生むことができると感じました。

今回生まれた出会いの例

■サッカー好きの小6女の子、日本代表のデフ女子サッカー選手にリフティングのコツを教わる
■読書大好きな小2の女の子、読書を語り合える先生に出会う(のちに、魚が大好きなことも共通点だったと分かる)
■ASL(アメリカ手話)を学びたい小3男の子、アメリカに住む日本人ろう者から学ぶ

4.今後の展開

新しい生活様式「マスク口隠れ問題」への対応

「新しい生活様式」が発表され、登校が始まって以来、周囲のほぼ全員がマスクをしていることから口形が読み取れず地域学校へ通う難聴児を中心に「話していることにすら気づけない」状況が生まれています。休校中の「会えない」から、「会えるけど話せない」へ変化したと言えます。オンラインでのコミュニケーション機会は緊急事態解除後も必要性の高い子どもへの提供を考えています。

授業・教材の質向上

750回の授業を通じて、200種類以上の教材が制作されました。Googleスライドをテキストに用いることで、話している先生と今見るべきページを同時に画面に表示することができ、視線移動の負担を軽減することができます。
■参考教材:小6算数_対称な図形※クリックして閲覧することができます

オンライン授業では、先生が生徒の関心を引きつける努力が高く必要になります。生徒と先生が考えることを楽しみながら発見を共にしていけるようなストーリーを盛り込んだ教材作りが必要と感じています。その点には、手話のスキルも大きく関わる場合があり、それに向けた先生の確保も行う必要があります。

業務効率のアップ

また、今回のオンライン授業プロジェクトでは事務局も合わせて約100名が関わって運営しておりました。授業の予約といった全ての情報を正確に管理するためには、システムの整備が急務となっております。こちらは既に動き始め年内のシステム稼働を目指して制作を進めております。

準備室を設立します

本プロジェクトを「オンライン家庭教師」や「オンライン塾」のような形式で事業化することを決定しました。2020年12月に予定しているサービス開始に向けて、サービスを利用したい「保護者」「生徒」と、働くことを希望する「先生」に情報をお届けする「発信専用」のアカウントです。ご希望の方は下記のボタンをクリックまたはQRコードを読み取って、NPO法人Silent Voiceからの情報を受け取ってください。

※オンライン教育サービスの情報以外は送付されません
※登録しても弊社スタッフおよびそれ以外の登録者にアカウントが知られることはありません。



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5.謝辞

日本財団ジャーナルさんに2回、オンライン授業について取り上げていただきました。

合計4,000件を超えるいいね!とシェアが集まりました。広く活動を知って頂くきっかけとなりました。ありがとうございました。

その①
新型コロナウイルス禍で孤立する全国のろう児・難聴児に家庭教師を無償提供。Silent Voiceが「いま」やれること

その②
【ソーシャル人】聴覚障害者が「自分らしく」生きられる未来を求めて。Silent Voiceが目指す社会の在り方

オンライン授業に352,000円の寄付金が集まりました。

寄付金は先生への謝礼の一部に充てさせて頂きました。寄付してくださった皆さまには深くお礼申し上げます。

今後もより多くの方々のご理解、ご協力、ご支援を賜りますよう、心よりお願いを申し上げます。

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この記事を書いた人
尾中 友哉
尾中 友哉
株式会社およびNPO法人「Silent Voice」代表。1989年、滋賀県出身。聴覚障害者の両親を持つ耳の聞こえる子どもとして、手話を第一言語に育つ。大学卒業後、東京の大手広告代理店に勤務。「自分にしかできない仕事とは?」について考える。2014年から聴覚障害者の聞こえないからこそ身についた伝える力を活かした企業向け研修プログラム「DENSHIN」や、ろう・難聴児向けの総合学習塾「デフアカデミー」を展開し、聴覚障害者の強みを生かす社会の実現に向けて活動している。2018年、青年版国民栄誉賞といわれる人間力大賞(主催:日本青年会議所)にてグランプリ・内閣総理大臣奨励賞および日本商工会議所会頭奨励賞を受賞。
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