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「僕の場所じゃない」から“まわりに頼ること”を学ぶまで

岡松 有香
岡松 有香

ろう・難聴児向け出張教室へのチャレンジ

2021年は、コロナの影響で、大阪府にたびたび出される緊急事態宣言。そして、長引くまん延防止等重点措置。

コロナ禍で、マスクで口元が見えない耳の聞こえない、聞こえにくい子たち。

今まで以上に支援環境が少なくなってしまい、孤立しているという声が多方面から届く…とにかくスピード感もって、可能な限り多くの子どもたちに、安心してコミュニケーションを取れる”居場所”を提供したい!

その気持ちを持って、昨年は、DACCOプロジェクトが発足。大阪府、そしてファンドレイジングで多くの方のサポートの元、オンライン教室、そして出張教室をスタートさせました。

初の出張教室の拠点は、大阪府豊中市。

谷町6丁目にあるデフアカデミーに通うには、少し遠いと感じる子どもたちに、興味を持っていただいたり、通っていただけることができました。

実際に、出張教室に通ってくれたお子さまの印象的なエピソードがありましたのでご紹介したく思います。

時間をかけていい。まずは、自己開示できる安心できる場所へ

豊中市地域の学校に通う6年生の男の子、J君。

1番初めの出会いは、豊中で行っている聞こえる子聞こえない子が、一緒に参加できるスポーツ企画でした。

その時、J君のお母さまが最初にスタッフにお伝えしてくださったことは、こんなことです。

・学校に友達が一人もいない

・独り言が多い

・どこにも行きたがらない

・何をさせても続かない

J君はお母さまの薦めで、一度は、DACCO出張教室に参加したものの、飛び交う手話に圧倒し、「ここは僕の場所じゃない」と感じてしまったそう。

DACCOが始まり、改めて、スタッフはお母さまとお話をさせていただく機会をいただきました。

「まずは、家以外に安心できる場所を作りましょう。そのために丁寧に大人と関係性を築いていきましょう。J君の好きな恐竜を題材に、成功体験をたくさん積んでもらいましょう!」

と、支援を開始いたしました。

初めの頃のJ君は、 デフスタッフに一方的に話しかけ、「スタッフの反応が薄い!」と、少し強い感情を出したり、独り言を言う時もありました。

質問をしても、故意に答えなかったりもしたこともあります。作業に集中したら時間をすぎても、完了するまで終われない。

自分の作業が終わった!と判断したら突然帰る・・・という表現と行動を繰り返していました。

最初は、とくに楽しそうなわけではないものの、 なんとか毎週時間を守って来てくれていました。

お母さまからも、「出張教室にいく時だけは、嫌がらず、拒否をしないんです」と嬉しそうにお話ししてくださっていました。

コミュニケーションは依然として難しく、自分の好きなことはこちらの興味や反応に合わせることなく凄い勢いで話す。

聞いたことには答えない、という状態が続いていました。

私たちは熱心に彼の話を聞き、 少しずつ話し方や距離、伝わらない時の工夫などについて伝えていきました。

意思伝達を学ぶ機会創出が必要

3ヶ月ほど経ったころ。

「自分で準備をするようになった」という話がお母さんから出るように

その頃から、促されないとしなかった挨拶ができるようになってきていました。

何をするにも受け身だったJ君が、自分がやりたいことを話し始め、計画を立て、実行するようになってきたのです!この頃にはもう、彼にとって出張教室が安心できる場所になっていたんだと思います。

作ったものを大切に保管し、出来上がったものをスタッフに見せ、嬉しそうに説明をしてくれました。

『恐竜』好きのJ君。

初めは、自分で書いた『恐竜』について調べて、恐竜図鑑を作ろう!という話をスタッフとしていたのですが、

途中から「立体の恐竜を作りたい!」と彼から提案がありました。

スタッフと相談する中で、 「それならJ君の恐竜展示会を開いてみよう」ということになりました!

締め切りが迫る中、毎週熱心にせっせと作業を進めました。

が、間に合わない!

そうなった時に、自ら、休みの日に追加で作業をしにくるようになりました。

そして、全ての作業が完了。

別の部屋で作業をしていたわたしのところに、最後、彼の方から完了の報告をしに来てくれました。

「できた!」

わたしが「お疲れ様!出来栄えはどう?」と聞くと、

しばらく考えて「昨日よりよくなった」と答えてくれました。

最後、自分で片付けおわったら、 スタッフを振り返り、 「ほな!」と片手をあげて、しっかりこちらをみて挨拶して帰っていきました。

J君と関わり始めて4ヶ月。決して十分な時間ではありません。

でもその中で彼は、コミュニケーションについて、人との関わり方について、自分の意思の伝え方について、いろんなことをたくさん吸収してくれたと思います。逆に言うと、地域のなかで、たった一人の聞こえない子どもは、その経験がしにくいとも言えると思います。

周囲で進んでいる会話が聞こえず、人との関わり方のパターンが学習できず、人の反応もはっきりキャッチできない。

それゆえに、コミュニケーションを諦めてしまい、一人の世界に浸ってしまったり、互いに違和感がある関わり方(相手が違和感があると思っても、気づかない関わり)になったりするのは、その学習の機会がないなら、当然のことだと思います。

個別の深い関わりにいくことへの決意

デフスタッフとは、UDトークや筆談をして会話していました。聞き取れない時は何度も聞き返せるようになりました。

会話をする時、相手に注意を向けられるようになりました。

初めはコミュニケーションの取り方がわからず、戸惑っていた筆談も紙を準備して、伝わらない時は自ら使うようになりました。 あいさつができるようになりました。

なにより、笑顔が増えました。

私たちは、デフアカデミーのサービスの広さと質の向上を優先して考えてきましたが、

今回の出張教室のチャレンジを通じて分かったことは、ただサービスを広げて、充実させるだけではまだまだ不十分だということ。まだまだ発展途上ですが、その子にあった適切な方法で、“個別に深く関わりにいく”必要があるということを、学ばせてもらいました。

それは、国が設けるルールの上では 、実現不可能な支援であること。

でも、誰かが絶対にやらないといけなくて、 それは私たちなんだ、と、強く感じました。

「甘えることができるようになりました」

出張教室の最終日。

J君のお母さまが、 泣きながら「ものすごくたくさんの変化があった」とお話されました。

家族との関わりかたも変わったとお伝えしてくださったのです。

「以前より甘えるようになった」と。

心許せる人間関係の中で、甘える=”頼ることができる”ようになることは、社会性がとても広がったという最大の証ですし、今後大人になっていく過程でも、大事な大事なスキル。

これは、私たちにとっても、嬉しくてたまらない変化でした。

そして、さらに、一番驚いたことは、 「どこにもいきたくない」と言っていたJ君が、 デフアカデミーの場所(谷町6丁目)をお母さまに聞き、「行ってみる」と言っていたとのことです

驚くとともに、ものすごく嬉しい一言でした。

これからもぐんと成長するJ君をそばで見れるのが、私たちもとっても楽しみです!

編集後:お母さまよりメッセージ

中学で剣道部に入部し、家族一同驚いています。

これからの成長も楽しみです!

今後ともよろしくお願いいたします。

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この記事を書いた人
岡松 有香
岡松 有香
手話の話せる言語聴覚士 / NPO法人SilentVoice理事 デフアカデミー谷町六丁目校 児童発達支援管理責任者  高校でタイの聾学校にボランティアで訪れた際、手話と出会う。 彼らのコミュニケーションに魅了され10年前より手話の学習を始める。 大学卒業後、言語聴覚士資格取得のため専門学校へ通い、その後回復期リハビリテーション病院で勤務。0歳~107歳までのリハビリ・ハビリテーションを担当。 その後、縁あってSilentVoiceと出会い、2017年9月、デフアカデミー谷町六丁目校の開校と同時に転職。自身の手話の技術と言語聴覚士の資格や経験を活かすことができるこの職を天職だと感じている。 2019年度より経営メンバーに加わることとなり、様々な角度からろう難聴児への私たちだからできるサポートを実現すべく日々奮闘中。
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