前編(前編記事はコチラ)では村田製作所開発部門とSilent Voiceによる現場改革プロジェクトの企画段階、そしてプロジェクトキックオフとなる1日研修までをまとめていった。後編ではメンバーが主体的に参加する現場改革コミュニティ(愛称:JOBいろり)を立ち上げて、参加者を変えていきながら毎月3回の場づくりを実行。その場での取り組みの内容や浸透・展開の仕方、そしてコロナ禍におけるオンラインでの実施方法などについて実践的に伝えていきたいと思う。
前編は「職場をより良くしたい!」とメンバーが思える現場改革へのきっかけづくりについてまとめていきました。後編では波乱万丈や混乱期を伴いながら、いかに「組織は変わっていくのか?」という実践内容について述べていきます。
はじめに
1年以上にわたるプロジェクトの流れをまずは見て頂きたいと思います。おすすめの見方としては①~⑤の「フェーズ」をざっくりと把握し、次に気になる「施策キーワード」を事前にメモしてください。メモした施策キーワードが書かれている箇所を中心に読むと、段階的に理解が進み物語が掴みやすくなります。
【前編記事はコチラ】https://silentvoice.co.jp/blog/2132/
3.企業コミュニケーションの最小単位=「会議」を改革
いよいよ、現場改革の実践に入っていくわけですが、何から始めていきましたか?
「今後どういう職場を作っていくのか?」についての部門ミッションを策定するところから始めました。今までも様々な言葉で部門のありたい姿を伝えてきましたが、今回は一言で分かりやすく伝えることにしました。また、部門ミッション策定をきっかけに課や係のミッションも課長・係長に考えてもらい、順次ロジックツリーの形でまとめていきました。
【施策キーワード】部・課のミッション策定
■ミッション策定のポイント
①何を大切にするかの優先順位が明確に理解できるもの
開発部ミッション「シナジーで仕事を楽しむ!」なので、仮に利益目標が達成したとしても「シナジーがない」「仕事を楽しんでいない」状態はNGということになる。
②メンバー間で達成の度合いを議論できる余地を残すこと
「営業利益20%」の場合は達成できたかできていないかの2択だが、今回は視座・視野・視点の違いで議論を生み出せる。
③部門メンバーは全員がリアルタイムで確認ができる状態にする
部門ミッションだけではなく、関連の課や係のミッションも見れるようにすることで、連携のコミュニケーションが円滑になる。(オンラインエクセルデータにまとめておき、部門メンバー全員が閲覧できる状態にしておくと良い。)
現場改革の目的・ゴール地点が示されたわけですが、次にどんなアクションをとっていきましたか?
1日研修で現場改革や自己成長に大きな期待を持てたメンバーが一定数出てきました。そのメンバーを核にして、風土や業務効率化等の現場改革をしていくコミュニティづくりをしました。また、そのコミュニティの名称を囲炉裏を囲んでいるような感覚で、自分の視点を大切にして現場改革を話し合うという意味で「JOBいろり」と名づけました。
【施策キーワード】JOBいろり
■現場改革コミュニティ(場)づくりのポイント
①名は体を表す
「業務効率化会議」だとワクワクもしないし興味ももてない。また、既存の改善系会議にトラウマがある場合は、そのイメージを引きずってしまうため、名称選びは非常に重要。
②変わり者を重宝しろ
多様なメンバーそれぞれが「自分がチームのためになった!」という他者貢献&自己裁量の感覚を持てるファシリテーションが重要。
③コミュニティの設計を考えすぎない
メンバーや経過する時間によって、コミュニティは変容していく。従って、コミュニティの立ち上げ初期からグランドルールを固めすぎず、高速PDCAをすることが重要。Pに時間をかけすぎても意味がないと(後々)分かる。
「JOBいろり」が立ち上がる頃くらいまでは、喜住(きすみ)さんはプロジェクトメンバーではありませんでしたが、その当時はどんな気持ちでしたか?
正直なところ、「何かやってるなー」という感じで、踏み入れがたい心理的な壁がありました(笑)
そうだったんですね(笑)しかし、そんな中で積極的にプロジェクトに参加していただきましたが、どのような印象を持ちましたか?
目からうろこの会議進行でした。社内でも効率的な会議をするツールや学ぶ場はあったのですが、時間の割に課題解決につながらず、くすぶっていたところでした。参加させて頂き、光明がみえた感じがしました。
【施策キーワード】会議改革(GPS、VAファシリ)
■当プロジェクトにおける会議改革のポイント
①1時間かかるMTGを16分で終える
会議にはアジェンダ(Goal・Process・Start)の設定が重要。今回はProcessのひな型を作っておき、各フェーズを4分で意思決定する高速MTGを実施した。通常のMTGの4倍のスピードで進めるわけなので、意見集約や意思決定のイノベーティブな工夫が数々生まれた。
(参照:「無言語©の専門家が語るテレワークに必要な力」2.アジェンダ力=道筋作成)
②全員に役割を与える
会議前に「話す」or「聴く」のが得意な人の2択のアンケートを取り、「話す」人には「メインプレイヤー(エンジェル&デビル)」、「聴く」人には「Visualのファシリテーター(書記、グラレコ)」「Audioのファシリテーター(司会、一般的なファシリテーター)」の役割を任命した。
③アイドリング状態をゼロにする
「わたし何のためにいるの?」こう思わせてしまう会議はなくした方がいい。誰か一人だけ(上司のケースが多い)がずっと話し、他メンバーの存在意義を奪わないようにファシリテーターを必ず一島に2名以上配置。参加しているメンバー全員がエンジン全開で会議に参加できるようにした。
4.部門長のトップコミットメント、そして部門全体への展開
さて、現場改革に関するテーマの会議をしていったり、そもそも会議におけるコミュニケーション改革を始めて行ったわけですが、その後はどのような展開をしていきましたか?
そもそもこのJOBいろりの取り組みは、課とメンバーを限定して試行的に始めたものなんです。しかし、現場改革を話し合っていくうちに、部門全体として取り組んでいく重要性が徐々に明らかになってきました。そこで部門の長として私から部門全体への展開を決定し、業務としてメンバーにもコミットしてもらうように伝えていきました。
興味があって活動に時間が割ける人だけの参加から、全員参加となりました。「忙しいからできない、本業があるからできない」というのではなく、JOBいろりの取り組みが確実に業務となりましたね。
展開をしていくうえでプロジェクトメンバーにとってバイブル的存在「現場改革の9コマシナリオ」はとてもうまく機能したと思います。人や組織を動かすストーリーの作り方について気づきがありました。具体的には、マネジャー自ら動くのではなくメンバーの想いに寄り添い、行動を促すことへ意識を高め、成長を実感できました。
【施策キーワード】現場改革の9コマシナリオ
■9コマシナリオの作成のポイント
①トラブルを織り込め
組織が変わろうとする時必ず成長痛のような出来事がある。それをシナリオとして盛り込んでおくと俯瞰的に正しい判断がしやすい。(上図の場合、「波乱万丈フェーズ」)
②毎月1回振り返ろう
プロジェクトメンバーで「いま、どこにいるのか?」についてそれぞれの認識を共有する機会を取ることで、施策の微調整が可能となる。
③四半期1回精査していこう
計画段階よりも実行段階になって分かることの方が多い。計画の奴隷にならず適切な道しるべとして機能させるために定期的に改善していこう。
部門全体に広がっていく時の「変わっていく」感は、私も伴走させて頂く中でとても強く感じました。様々な拠点、関連会社、本社の別プロジェクトのメンバーが参加してくれるなど、改革の渦をそこに見ました。さて、このタイミングで、外側ではなく内側、つまりプロジェクトの企画チーム内で何か工夫をされていたことなどはありましたか?
「70%バトンタッチ」というチームの成長と新陳代謝を加速化させる仕組みを採用していました。元々JOBいろりの会議運営の場づくりサポートを私がしていたのですが、一定の型=70%くらいできたら私の役割は他メンバーに譲り、私自身は現場改革の個別テーマのサポートなどに回っていました。私の後続の担当も70%くらいできるようになると次の担当に引き継ぎ、改革自体のサポートなどに回っていきました。松野マネジャー(当時)はJOBいろりで桜井さんが講師として全体をファシリテーションしていた役割を担当されたりするなど、プロジェクトメンバー自らが変化していく歩みを止めませんでした。
【施策キーワード】70%バトンタッチ
■プロジェクトの事務局運営のポイント
①運営を属人化させるな
一定の型=70%ができたらバトンタッチすることで、「誰がやっても同じ結果が出る」、運営の非属人化を実現できる。
②スピード重視で時間を味方に
まだ引継ぎが完ぺきとは言えない状況でも役割バトンタッチすることで、結果的に最短距離で物事が進む。なぜなら、実際やってみることが最大の引継ぎだからだ。
③同じ土俵に巻き込んでいこう
プロジェクトに強い興味関心を示している参加者は積極的に企画メンバーへとヘッドハンティングをし、現場改革を先導するメンバーを増やしていく。
100名を超える開発部門全体に取り組みを認知、関心形成をするには相当な苦労があったのではないかと思いますが、どのような工夫をされていましたか?
私は元々別部門からJOBいろりの会議方法などに興味を持ち、オブザーブ参加させてもらっていました。しかし、JOBいろりはいい意味でオブザーブではずっと参加させてもらえない環境がありました(笑)そこで、当時会議で出たアウトプットをまとめ、参加風景の写真を撮るなどをして、その場で速報新聞のようなものを作っていました。名を「JOBいろり新聞」というのですが、私はその新聞のアウトプットの責任者である編集長の役割をもらい参加していました。
なるほど、認知、関心形成のために新聞を作っていらっしゃったのですね。
はい。数十分の間に新聞の記事構成・デザインなどを終え、JOBいろり終了後にはそれを読んでほしい人に印刷して配布できるようにしました。ただの議事録だと見てくれないのですが、会議で意思決定されたものをほぼリアルタイムで見れる新聞の形にすることで認知や関心形成が広がったと思います。
【施策キーワード】部内浸透ツール“JOBいろり新聞”
■部内浸透ツールのポイント
①伝えたいことを伝えるな
プロジェクトの認知や関心を持ってもらうためのツールなので、発信者視点ではなく受信者視点での内容になっているかをチェック。
②翌日に持ち越さない
これを作成することを目的にしては本末転倒。会議時間中に完成できるような作成の自動化を進めていこう。
③会議のゴールが明確になる
「この会議は新聞の各項目を埋めることです!」と伝えたら、限られた時間の中で何をしないといけないかが明確になる。
5.コロナ禍での現場改革
マネジャーを対象とするファシリテーション研修などをはさみながら、2020年を迎えるわけですが、「さぁ、ますます加速化していくぞ!」という中でご存知コロナ禍に突入するわけです。現場改革で各所にリーダーシップを発揮していただいた鈴木さんは当時何を感じられていましたか?
研修などでムードも高まってきた中で、前提条件が明らかに変わったと感じました。しかし、個人的には自社だけがこうなっているわけではないので、行動するほどチャンスが増えるし、仕事の仕方も大きく変えることができると思いました。
私もオンラインの方が逆に話しやすいなどの意見もあり、オンラインコミュニケーションをポジティブに受け止めていました。ただし、オンライン特有のファシリテーションスキルが必要だとも徐々に実感してきました。
【施策キーワード】現場改革@オンライン
■現場改革@オンラインのポイント
①アジェンダが命
Audioのファシリテーターは事前にMTGの流れを「誰がどんな発言をし、どんな流れになりそうか?」というレベルまで鮮明にイメージしたうえでアジェンダとしてアウトプットする。(参照:前述「【施策キーワード】会議改革」)
②リアルタイムアウトプットツールを使え
オンラインエクセル、グーグルスプレッドシート、miroなど参加者がリアルタイムに一斉にアウトプットできるツールを使用する。1分あたりのアウトプット量は使用していない時と比べて4倍以上となる。
(参照:「無言語©の専門家が語るテレワークに必要な力」2.アジェンダ力=道筋作成)
③リアルより進めやすい⁉
オンラインだと「在宅で一人で集中して参加できる」「発言する前にシートにアウトプットする」ことから、本音が出しやすいという意見も複数人からあった。適切なファシリテーションがあれば風土等の改革にオンラインは相性がいい。
コロナ禍でも現場改革の歩みを止めない姿勢に感動をしました。改革をする「やり方」も大切ですが、改革をしたいという「あり方」がメンバーの方の心を打ったのだと思います。さて、結果として当初列挙された課題の80%が解決済みor解決の目処が立っている状態になっていたり、ファシリテーション技法が部門全体に浸透をしていっているとのことですが、Silent Voice×村田製作所開発部門とのプロジェクトの最終施策は何だったのでしょうか?
「私たちは自分たちの努力で変わったんだ」とメンバーに思ってもらうことです。そのためにやったことが、まさに今視聴者の方がご覧頂いているこの記事の存在です。私たちがチャレンジしてきた足跡をこのようにまとめ、村田製作所全体や社外の方々に知ってもらうことで、ある意味「人目」を気にするようになります。「自分たちはまだまだ発展途上だが、1年前よりも自信をもって変化できているぞ」と思ってもらうきっかけとして社外の人にもこの取り組みを知ってもらうPRをすることにしました。
【施策キーワード】社外PRによる社内認識の変化
■社内認識の変化のポイント
①自分のことが一番分からない
親戚のおじさんから「身長伸びたね!」と言われて初めて成長を実感するのと同様に、社内外の人からフィードバックをもらえる仕掛けを作る。
②「見られている」ことで変化が促進
好きな人から「優しいですね」と言われたら優しい自分であろうと思うように、普段の言動が「見られている」と意識することで変化が促進。
③「独占」から「シェア」の時代へ
この種の改革プロジェクトはクローズドになりがちであるが、シェアすることでより良い情報・人・想いの交流が始まる。そして、目指すべき新たなステージが輪郭を現すのだ。
プロジェクト全体の説明は以上です。本プロジェクトの責任者として灘部長、振り返って頂きいかがでしょうか?
組織の長が現場を変えようとしているメンバーを支える覚悟を示すことが大切であると改めて気づきました。「問題が起こって困った時も責任は自分がとるので、思う存分に取り組んでほしい。」とあえて伝え、実際に困ったときは孤立させない。これにより、報連相は格段に良くなりました。「困った時には相談してくださいね」って言うだけでは相談できないことを学びました。
最後に。
前編と後編の本記事では扱えなかった重要なキーワードや具体的な施策、ここには書けないようなピンチなどもあったわけですが(笑)最後にこのプロジェクトを一言で表現して、後編を結んでいきたいと思います。
想いを伝え、皆で変えよう。その一人の想いはきっと職場をイキイキとさせる。
現場をもつ純日本の製造業開発でのWITHコロナ時代の働き方。
皆さん、ありがとうございました!これをもちまして、「村田製作所、ある開発部門の現場改革」プロジェクト、ゴールインです!
■当記事に関するお問い合わせはコチラ
https://silentvoice.co.jp/contact/
(担当:株式会社Silent Voice 桜井)