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株式会社Silent Voiceが描く、これまでに縛られないこれからの未来像。

Silent Voice公式
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言語、発声、表情、挙動。人々がコミュニケーションを行う方法は実にさまざまで多様性に富んでいる。近年、新たなコミュニケーションツールが多く開発・導入され、こと技術面で言えば飛躍的に発展を遂げたと言えるだろう。しかしその一方で、未だコミュニケーションの課題は多く、頭を悩ませている人々も少なくない。

株式会社Silent Voiceは、そうしたコミュニケーションに課題を抱える企業に対し、コミュニケーション研修プログラムや伴走型のグループコーチング、組織サーベイの提供を通じ、既存の構造を新しく捉え直すことによって顧客価値の創造に取り組んできた。

これらの土台にあるのは、株式会社とNPO法人の二刀流でろう者・難聴者と聴者(聞こえる人)との協働に真摯に向き合ってきた6年間だ。

活動を通して得た手応えと新たに感じた課題を踏まえ、VMV(Vision,Mission,Value)を刷新した。
Visionは「『これまで』が『これから』を制限しない社会」、Missionは「優劣のものさしを変える」、Valueは「伝わらないほど、あふれだすもの」にそれぞれリニューアル。新たなVMVの背景にある思いや今後の展望について、代表の尾中と取締役の桜井が今の胸の内を語る。

(左)代表取締役 尾中 友哉 (右)取締役 桜井 夏輝

(左)代表取締役 尾中 友哉(右)取締役 桜井 夏輝

目の前の課題に取り組みつつ、社会の構造へもメスを入れていきたい。

━これまでの6年間を振り返って

尾中

Silent Voiceは、NPO法人と株式会社の“二刀流”で事業に取り組んでいます。NPO法人では、ろう児・難聴児を対象とした教育事業を。株式会社Silent Voiceでは、コミュニケーションに課題を抱えている法人を対象に、コミュニケーションの研修プログラムや組織風土改革といった事業を行ってきました。

事業の背景には、両親がろう者であり、その子ども(CODA)である僕自身の原体験があります。創業当初の理念には僕の思いが強く反映されていたのですが、聞こえない人との接点が少ない桜井の視点を得ることで、Silent Voiceの可能性をより大きく描けるようになりました。

尾中と事業を行う中で、聞こえない人々との課題を解決したいと本気で思えば思うほど、目の前の一人ひとりに向き合うだけでなく、聞こえない人を取り巻く社会の環境や構造を変えないといけないなと気づいたんです。

立ち上げ以来、NPOでは身近な聞こえない人々の個別具体的な課題解決に取り組んできました。であれば、そこは大事にしつつ、株式会社は社会の構造改革に振り切って特化し、それぞれ役割や強みを分けて考えた方が良いと考えました。そのために、株式会社として新たに企業の使命、理念、行動指針であるVMVを見直す必要があったんです。

桜井

創業以来の事業である研修事業では「聞こえない研修講師」が登場。コミュニケーション感覚の違いから聞こえる人々に気づきを生み出し、企業導入が広がっている(記事リンク

━新しいVMVが出来上がるまで

尾中

創業当初は僕個人の思いで引っ張ってきたのですが、今回新たに刷新したVMVは主に桜井が引っ張ってくれました。周囲を置き去りにしないように、私たちだけでなく、NPOのメンバーを含め、スタッフにも会議に入ってもらって意見を聞きました。VMVがどのように具体的なアクションにつながるのかがイメージできないと、なかなか理解できません。何度も会議を重ね、アイデア出しをして、練りに練った結果、今の形になりました。

最初は私から「社会貢献」や「エンタメ性」といったいくつかの方向性からアイデアの叩き台を提示し、尾中やスタッフたちと対話を重ねる中で練り上げてきました。頻度は2週間に一度くらい。途中アイデアが煮詰まったら寝かせてみたり、満足するまで尾中の行きつけの銭湯で語ったり……。できあがるまでに1年くらいの年月がかかりましたよね。

桜井
尾中

会社の方向性を左右するVMVのリニューアルに、僕自身迷いがあったんです。創業から大事にしてきたことが、大きく変わってしまうのではないかとの不安がありました。

VMVは会社の存在意義を社会に示すと同時に、社員やスタッフの存在理由になる「居場所」のような役割を持っています。僕らの思いがちゃんとVMVに含まれないと、やりたいことができなくなったり、自分たちの存在理由が無くなったりする可能性もありました。だからこそ、目の前の聞こえない人々が抱える課題を解決するNPOとしてのSilent Voiceと、それを取り巻く社会構造にメスを入れる株式会社としてのSilent Voiceの棲み分けを明確にし、VMVを新たに刷新することにしたんです。

新しくなったVMV

Vision(私たちの目指している社会像)
「これまで」が「これから」を制限しない社会

Mission(ビジョン実現のために成し遂げること)
優劣のものさしを変える

Value(ビジョン・ミッション実現のために大切にすること)
伝わらないほど あふれだすもの。

現場から生まれた言葉たちで紡がれたVMV。

━Vision、Mission、Value、それぞれに込められた想い

尾中

VMVには、ろう者である僕の両親との経験が大きく影響しています。

父は聞こえないことで教育や仕事の選択肢が限定され、会社では差別も経験しました。一方で、母は自ら喫茶店を開き、イキイキと働いていたんです。

母は、”聴覚障害者”の「これまで」を考えれば不可能だと諦めてしまいそうなことにチャレンジし、「これから」の可能性を開いたんですよね。実はその背景に、喫茶店の開店を支えた祖父の存在があるんです。祖父は喫茶店の話を聞いたとき、「やったらできるんちゃうか」ととても乗り気で、「これまで」に縛られない「これから」の未来図を描いたんです。

こうした原体験から、僕ら自身が「これまで」に制約を受けず、「これから」を指し示す存在になりたいと思い、「『これまで』が『これから』を制限しない社会」というVisionが生まれました。

「『これまで』が『これから』を制限しない社会」の実現のためには、これまでの価値基準を変える必要があります。例えば、尾中の両親の話にあったように、これまで”聴覚障害者”として機会に恵まれなかったからといって、これからも同じような状況が続くわけではない。「聞こえる」「聞こえない」といったこれまでの優劣のものさしを変えることによって、これからの可能性が大きく広がるケースは、過去の事例から見ても多々ありました。

優劣のものさしを変えるためには2つの方法があります。1つはショック体験。これまでの価値観に揺らぎを与える、強烈な体験ですね。しかし、これはあくまで一時的な価値観の変化に過ぎません。2つ目は環境や評価そのものを変えることです。会社であれば何をすれば評価されるのかを決める、社内のインセンティブ設計を変えることが一番重要です。

桜井
尾中

Missionについては「意味のイノベーション」に近いと思います。ろうそくの例がわかりやすいのですが、明るくなったとか長持ちするようになったといった、技術的なイノベーションは全く起こっていないのにもかかわらず、新しい空間演出として再び注目を集め、売上数が伸びましたよね。人々の明暗に対する美的感覚や価値基準が変わったことで、評価が変わった面白い例です。こうした変革を、事業を通じて促していきたいです。

━伝わらない現場で、あふれだしたもの

尾中

仕事の中で大事にしているコアの部分が、Valueである「伝わらないほど、あふれだすもの。」です。僕たち自身、聞こえない人たちと働くことをとても大事にしてきました。彼らとともに働ける職場を、そして事業をつくるために、さまざまなチャレンジを重ねてきました。そこで得た気づきや学びを、聞こえる人たちが抱えるコミュニケーションの課題解決へと活かし、事業として取り組んでいます。

「聞こえる」「聞こえない」の間にあるものって、コミュニケーションの壁なんです。そこに真摯に向き合い、たくさん気づき、学んできたからこそ、今の事業があります。だからこそ、僕たちは「伝わらない」ことをネガティブだけで受け止められないんですよね。そんな思いや期待のようなものを、Valueには盛り込みました。

Silent Voiceを創業してはじめて、これまで関わったことのない聞こえない人たちとコミュニケーションを取り、友人や仲間たちができました。私は尾中と違い手話ができないので、コミュニケーションにとてもスタミナを使います。しかし、このスタミナを惜しんではならないと思っていて、伝えたいからこそ一生懸命発信するし、コミュニケーションを取ってきました。

こうした過程で生まれた工夫や熱量といったものが私たちの事業を育ててきたので、尾中の言う通り、「伝わらない」ことを大事にしていきたいと思っています。

桜井

事業を通して当たり前になり、陳腐化していくVMVを目指して。

━Silent Voiceにとって、VMVとは何か

尾中

僕は、働いている仲間と意見にズレが生じた際、唯一利害が一致するところがVMVだと捉えています。先ほどの話にもあったように、「僕らが目指すところはここだよね、僕らの存在理由はこれだよね」を言語化したものがVMV。そこが共通しているからこそ、一緒にSilent Voiceで働けます。

とはいえ、株式会社としてのVMVはまだ誕生したばかり。これから育てていく必要があります。

VisionやMissionをどのように浸透させるかは、経営者にとって大きなテーマの一つ。僕らは事業を通して浸透を図っていきたいと考えています。VMVに紐づいた事業を育て、行っていくことで、僕らの理想とする社会に共感してもらえると嬉しいですね。

私も同様に、事業を通してVMVを体現していきたいと思っています。そのために、意識せずとも事業を行なっていけば、自然とVMVが達成できる会社づくりをしていきたい。そして、2つの意味でVMVを早く陳腐化させていきたいとも思っています。

第一に、自分たちの中でもうお腹いっぱいだと、飽きちゃったと言えるくらいにやり切ること。第二に、社会から「Silent Voiceが掲げていることって普通だよね」「特別なことでも何でもないよね」と言われるくらい、当たり前の価値観になっていくことを目指しています。事業を通してVMVを陳腐化させることで、はじめて私たちの事業に価値があったと言えるのではないでしょうか。

桜井

目の前の当事者が抱える課題に対し、真摯に解決に取り組んできたNPO法人Silent Voice。今後、より大きな変革を生むために、株式会社Silent Voiceとしての挑戦が新たに言語化された。それは他所から借りてきた綺麗な言葉ではなく、実際に自分たちが経験した生の体験から出てきた血の通う言葉たちで紡がれている。

描く未来は、今はまだ素敵に感じるかもしれない。この先、いつかこれらの未来が社会にとって「当たり前のことだよね」と受け取られ、陳腐なものになっていくことを願ってやまない。

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ろう者・難聴者の教育や就労環境をアップデートし、社会での活躍を増やすための事業を展開。最大の課題である「コミュニケーションの壁」から価値を生み出す挑戦を続けています。
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