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村田製作所、ある開発部門の現場改革記~前編:現場改革のリアル~

桜井 夏輝
桜井 夏輝


大きくなるにつれてコミュニケーションは希薄になり、生産性は高まれどメンバーの幸せは低くなる」そんな課題意識を世界トップクラスの電子部品メーカー村田製作所(本社:京都府長岡京市)のある開発部隊が感じていた。そんな折、無言語©研修を含めた現場改革コンサルティングにSilent Voiceが参画した。プロジェクト開始から1年以上経ったコロナ禍の今でも、現場マネジャークラスを中心に取り組みはアップデートをしながら続いている。今回は、1年以上にわたる綺麗事ではない現場改革のリアルを伝えていきたい。

桜井

少し大胆に言えば、企業課題とは「人」「チーム」の課題だと思います。その課題は長い年月をかけると組織風土や価値観に影響を与えます。当記事では組織風土、業務効率化などの現場改革に取り組んでいる方、または、その必要を感じている方にとって、「やるべきこと」「やってはいけないこと」を理解し実践しやすいように述べていきます!

 

0.現場改革の全体像と結論

1年以上にわたるプロジェクトの流れをまずは見て頂きたいと思います。おすすめの見方としては①~⑤の「フェーズ」をざっくりと把握し、次に気になる「施策キーワード」を事前にメモしてください。メモした施策キーワードが書かれている箇所を中心に読むと、段階的に理解が進み物語が掴みやすくなります。

 


※後編記事はコチラ!
https://silentvoice.co.jp/blog/2210/

 
桜井

プロジェクトメンバーにプロジェクトの前と後の変化について、聞いてみたいと思います。

現場改革やコミュニケーション改善に対するメンバーの諦め感が元々ある職場でした。しかし、今では現場レベルで変われるんだ!と実感しています。その変化には私を中心とした部門長の決断は欠かせないことも改めて痛感しました。

灘部長
藤分

過去職場で進めてきたコミュニケーションを改革するための取り組みだけでは抽象的で効果が見えませんでした。しかし、今回のプロジェクトでは仕事に直結する「業務改善」と組み合わせ、具体的で目に見えるものへの取り組みをしていきました。また、個人的な変化としては「自分が少しでも変わりたい」「まずは自分から他人を受け入れるコミュニケーションを大切にしたい」と思えたことです。

これまで類似の取り組みをする度に、「人はそうそう変わらない」というプチ厭世観に度々支配されていました。ただ今回は自分含め「人はまあまあ変われる」と実感しました。会議や課題解決のテンポは自分でコントロールできるという確信も持ち、業務内外に関わらず課題への向き合い方が定まってくる感覚を持てました。

下山
 

このようなビフォー・アフターを実現した現場改革プロジェクトですが、始まりはある1枚のスライド(下図)でした。そして、この実現のために、村田製作所開発部門とSilent Voiceは約1年の波乱万丈を経験していくこととなりました。

2018年10月時点でSilent Voiceが提案した資料内容を再現したものです。

 

では、これをどのようにして実現していったのか?この記事では前編と後編合わせて5つの章に分けてお届けします!

目次


1.【前編】「改革疲れ」の脱却から始まった
2.【前編】挫折、そして見えてきた希望の光
3.【後編※】企業コミュニケーションの最小単位=「会議」を改革
4.【後編※】部門長のトップコミットメント、そして部門全体への展開
5.【後編※】コロナ禍での現場改革
※後編記事はコチラ!
https://silentvoice.co.jp/blog/2210/

 

1.「改革疲れ」の脱却から始まった

桜井

プロジェクトが始まる前の状況を教えていただけますか?

村田製作所は今まで組織風土や業務効率化の変革に繋がる取り組みを、切り口を変えながら行ってきました。それぞれの時代で設定した課題や目指すゴールは異なりますが、その取り組みの成果もありました。しかし一方で、現場では「改革疲れ」のような雰囲気も漂っていました。当時、組織サーベイや職場状況から「このままではマズい」と感じ、今の時代にあった何らかの取り組みを職場でやる必要があると考えていました。そこで、ダイバーシティ&インクルージョン活動を推進してくれていたメンバーと共にSilent Voice社と課題やゴールのすり合わせを始めました。

灘部長
【施策キーワード】課題とゴールの徹底的なすり合わせ

■記入の際のポイント
①モレがないように網羅的に記述(ダブるのはOK)
②3回以上加筆修正する(1発完成は本質に迫りきれていない可能性アリ)
③視座・視点・視野の異なるメンバーで作る(似た者同士はダメ)

桜井

課題とゴールをすり合わせた後には、どのような気持ちで具体的には何に取り組んでいきましたか?

Silent Voice社や無言語©研修をすでに受講された本社メンバーの方と出会い、無言語©研修など新しい企画をできることにワクワクしていました!また、企画に際してはまず考え方のベースを作ろうということで、ハリシュ(破離守)仮説というものを作りました。村田製作所のように一定組織としてのルールが完成されているチームには、まずルールを疑い「破」ることが大切ではないか?という意見が出たことをきっかけに、フレームワークを作りました。

下山
【施策キーワード】ハリシュ仮説

■解説
①芸事の世界における「守破離(しゅはり)」というフレームワークをベースに構築された現場改革に関する仮説
②コミュニケーションが閉鎖的、硬直化した組織における現場改革の理想的なステップを示したもの
③ただし、ルールや型がそもそもなかったり、完成されていない立ち上げ期の企業やチームに適用するには不向き

桜井

特にこのハリシュ(破離守)の中でも意識をされていたところはありますか?

やはり「ハ(破)」の部分ですね。業務改善などの議論はこのプロジェクト以前からも行ったことがありますが、その場限りの議論になりアクションにつながらなかったり、形式的で本音が出にくいといった課題がありました。だからこそ、業務改善ディスカッションをするまでの時間のあり方=つまり、普段のコミュニケーションルールを見つめなおすアイスブレイクがとても大切であるという認識をメンバー全員が持っていました。

下山
【施策キーワード】大いなるアイスブレイク

■組織風土や業務効率化等の研修でありがちな失敗と対策
①しばしばビジョン・ミッションの再定義や日常コミュニケーションの振り返りなどを冒頭から行うケースがあるが、ハリシュ仮説が適用できるような組織にはこの方法はタブー
②新しいコミュニケーションルールが設定されていない中で、既存のメンバーと既存の関係性でディスカッションしても、やらされ感と他責感を感じながら結局本音を出せない
③対策としては、日常の関係性(上司-部下など)を揺れ動かす非日常環境でコミュニケーションを取ることが大切。2-4時間くらいかけて大いなるアイスブレイクをするイメージ

2.挫折、そして見えてきた希望の光

ついにハリシュ仮説をベースとした研修&研修後フォローアップ企画を実施することになりました。丸1日かけた研修を2つの部内チームに実施しますが、そこで我々プロジェクトチームが体験する挫折、そして見えてきた希望の光についても触れながら述べていきたいと思います。

桜井

1日研修として午前中に無言語©研修、午後から業務改善研修を実施しました。無言語©研修で得られた気づきや効果について教えて頂けますか?

無言語©研修では、コミュニケーションは聞く側と話す側双方が理解しようとする姿勢に深く考えさせられました。当たり前のことではあるのですが、当たり前をできてないことに自分から気づくことができて良かったです。

喜住
【施策キーワード】無言語©研修

■当日参加者の代表的な声
①言葉で話せば伝わっていると思い込んでいるだけで、実態は別であることを実感しました。
②伝える側だけではなく、「聞き手側のリーダーシップ」を発揮することが大切であるというのが響きました。
③メンバーの心の奥底には「伝えたい,分かりたい,より良くしたい」が眠っていることを感じられた研修でした。
※そもそも無言語©ってなに?って方は過去配信記事をチェック!
https://silentvoice.co.jp/blog/1029/

桜井

午後の研修では1回目と2回目では大きく内容を変更して実施しました。その時の状況について教えて頂けますか?

1回目の1日研修ではそれなりの「拒絶反応」がありました。これまでの経験で免疫がついていたつもりだったのですが、リアルに泣きながら、気力だけで次へ進みました(笑)。プロジェクトのスタートで早速挫折感を味わいました。

下山
藤分

そうでしたね(笑)人が変わるのは難しいと一部あきらめそうになりました。しかし、そんな1回目を経験したおかげで、2回目にこのプロジェクトの成功を決定づける形を作れたことは幸運でした。

1回目も2回目も無言語©研修と業務改善研修「WANT-CANマッピング」というものは共通でやりました。その後のワークの違いによって、成果に大きな差を生んだのだと思います。

下山
【施策キーワード】WANT-CANマッピング

■マッピングの際のコツ
①4つのゾーンのどこかに綺麗におさまる
実験作業=Aテーマに関するもの&Bテーマに関するものを指すとして、Aテーマに関するものは天職タスクだが、Bテーマに関するものは転職タスクの場合は、付箋を分けて書く
②自分にとって意味のあるレベル感で分解
歩く、実験機材に触れるなど、正負いずれの感情も発生しないような細かすぎる分解はしない
③4つのゾーンにできるだけ散らす
本音で、自分の担っているタスクを相対的に見てマッピングすること

桜井

WANT-CANマッピングの後、1回目は相互理解をより深めようということで、一人一人のトリセツ(取扱説明書)を作るワークを行いました。しかし、それが裏目に出てしまいましたね。今振り返ってみると、「仕事のわたし」を超えて「本当のわたし」について話すことについて抵抗感を持つチームのことを考慮しきれていませんでした。たしかに、このワークを通してチームワークにいい影響があると回答してくれたチームもいくつもありました。しかし、そのチームはそもそもチームワークがいい状態だったのです。

はい、そうでしたね。ただ、1回目の反省を踏まえ、2回目の「改善提案&(部門長による)即断即決」のワークがその後のプロジェクト成功へつながっていきました。

下山
灘部長

改善提案&即断即決のワークのスピード感・スリル感はものすごかったですね!メンバーが考えてくれたアイデアを受け、「本日付けで議事録をとるタスクは原則廃止!」「そのタスク群は一括して▲チームから■チームへ移行!」などとその場で意思決定をしていきました。もちろん、採用できないアイデアには「何を解決したら採用可能か?」などの理由説明を添え、判断保留のアイデアには「いつまでに回答をするか」について明言しました。「職場を良くしたい!」というメンバーの気持ちにいち早く答え、決定責任を負う。私ができることはそれに尽きると思い真剣勝負で向き合いました。

【施策キーワード】部門長による即断即決

■組織風土や業務効率化等の研修のクロージングワークのポイント
①メンバーが「アイデアを出して良かった」「明日から変わりそう」と思える具体的な意思決定をする
②改善提案をした内容について、意思決定をし実践につなげていける決裁者に参加してもらう
③メンバーが「自分たちが決めたこと」という主体性を持てる研修のプロセスデザインをする

前編の終わりに

桜井

前編ではプロジェクトの立ち上げ期からキックオフにあたる1日研修までのお話を聞いていきましたが、改めて振り返るといかがでしょうか?

最終的に部長・課長が「確実に実行したい」という意思を皆で共有できたので、「今までとは違う」「研修を受けただけで終わらない」という空気が生まれたと思います。「空気を感じた」というより「空気が見えた」くらいの変化を感じました。

下山
藤分

多くの研修が実業務とは離れたその場限りのもので研修後はいつもの自分に戻ってしまいがちでした。しかし、今回は普段の業務と直接リンクしていたので、「確実に変わる!」とメンバーも実感できたのではないかと思います。

今まで言い出しにくかったことも率直に話し合える職場を目指して、遠くに見える灯台の明かりのような手ごたえを感じました。

灘部長
桜井

皆さん、ありがとうございます!まだまだ残された課題や変革の成長痛は続きそうですが、前編はここまで!

※後編記事はコチラ!
https://silentvoice.co.jp/blog/2210/

 

■当記事に関するお問い合わせはコチラ
https://silentvoice.co.jp/contact/
(担当:株式会社Silent Voice 桜井)

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この記事を書いた人
桜井 夏輝
Silent Voiceの創業メンバー&取締役。組織風土コンサルタントとして上場企業等のコミュニケーション顧問を担う。幼少期をシンガポールで過ごし、社内の半数がDEAF(聞こえない聞こえにくい人)であることから、多様な人や考え方の中で生き抜く力を培った。現在、責任者を務める「無音空間で言葉を使わない」無言語©コミュニケーション研修は、アシックスやドコモ、オムロンなど多くの先進的な企業が導入している。同研修はNHKや民放各局を中心に数々のメディアに掲載され、今後の時代に求められるコミュニケーションのあり方として注目を浴びている。

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